• みこべ

「もういいよ」

10月1日は中秋の名月でしたね。晴れて澄んだ夜空に煌々と輝いているミカン色のお月様を見上げながら、あの美しい月を見ているあの人、この人の顔を思い浮かべました。太陽が西の空に沈むころ東の空からまぁるいお月様が昇ります。そしてこの日は太陽も月も同じ軌跡をたどるのだそうです。だから中秋と言うのでしょうか。満月は翌日でしたから今年はきれいなお月様を2回も楽しめました。みこべは長野県の生まれなので、中秋の名月の頃は寒くて、セーターを着込んで田んぼの畦道に座って北アルプスから昇るお月様を見ていました。懐かしい思い出です。

 麦っ子の園庭の小川もずいぶん形が落ち着いてきて、小川の周辺にはジュズダマやアップルミント、アカマンマなどが植わっています。ひょうたん島とかゲルの横なんて、なんだか風格さえ感じるほど。この間ギンヤンマやアカトンボのカップルがやってきたので、「ヤゴ育成中」の看板が立てられた池も出来ました。井戸水が流れている小川の周りでは朝も日中も夕方も、色んなドラマが生まれています。ケンカも勃発しますが、大人から見ればどうということのない他愛のないケンカですが、子どもにすれば一大事です。時にはガリッとひっかいたりポカッと頭を叩いたり、小さくても取っ組み合いになったり……。それでも必ず「ごめんね」「もういいよ」と互いの頭をなでながら言い合う子ども達。涙を浮かべてしゃくりあげながら許し合っている。そんな場面を見ると、子どもってすごいなぁ~と心底感心します。大人の私達には本当に難しいことですが―。

 「もういいよ」という子達を見ていると、もう10年以上も前の事を思い出します。いろいろな出来事の中で、絶対に忘れてはいけないSくんのこと―。

クリスマス会の練習が始まった頃Sくんのお母さんから、デカ達の中でSくんをからかう子が何人もいたことを聞きました。それも太陽がほとんどで、虹のSくんに何度も何度もSくんが嫌なことを言い続けたこと。思い余ってお母さんにSくんが「麦っ子を辞めたい」と言ったというのです。夏のプールの頃が発端で、その頃はまだ深刻な内容ではなかったようですが、Sくんはずっとがまんしてお母さんにも言えないでいたのでした。デカ達にそんなことが起きていることが私達大人の耳に全く入ってこなかったこともショックでした。ティピーで焚き火が始まっていよいよ本格的に寒くなってきた頃、のんちゃんと「Sはなんだかこの頃大人びてきたね」「デカになって落ち着いたんだろうか?」「う~ん、冗談もあまり言わなくなったよね」と話していたのですが、まさかそんなことになっているなんて…。お母さんから相談を受けたのは、そんな話をした一ヶ月ぐらい後でした。(しまった…!対応が遅かった…!!)そう思っても後の祭り…。Sくんが大人びたのでも落ち着いたのでもなかった。ずっとずっと悩んでいた彼の心を思うと、申し訳ない気持ちと自分に対する情けなさとで身の置き所がありませんでした。

デカ部屋に行ってみると歌の練習を始めるところでした。練習を待ってもらってSくんを呼び、みんなの前でお母さんから聞いたことを話し始めました。一瞬、それまでクリスマスの歌を練習するウキウキした空気が静まりました。

話の途中でみこべは申し訳なくて涙が出てきました。「S、気がついてあげられなくて本当にごめんね」そう言うとSくんの目からも涙が…。何人かの子の顔つきが変わり、しゃくりあげる子もいました。そして話が終わって「Sが嫌がることを言った人、前に出て来い」ゆうしくんの言葉で前に出てきた子達の顔ぶれを見たときの衝撃…。「太陽ばっかりじゃないか…!」ゆうしくんもそう言ったきり言葉が出ません。Sくんは自分に嫌なことを言ってからかった子をひとりひとり全部覚えていて、前に出てくる勇気のない子の顔をじっと見詰めるのです。たまりかねたぺろちゃんに「まだ前に出てこない子がいるよ。ちゃんと出なさい!」と言われてさらに立ち上がった子達も太陽だった。時には一人で、時には何人かでSくんをからかったと言う。自分より小さい虹ぐみなのに、なぜ誰も止める子がいなかったのだろう…。

大人の見えないところでからかっていたのだから、悪いことをしている意識は絶対あったはず。いつも「デカ部屋で〇〇があんなことしてるよー!」と、必ず教えに来る子達まで立っている…。みんなで一人の子をからかうなんて悪いに決まっていますが、気がつかなかった私達大人はもっと悪かった。Sくんに本当にかわいそうなことをしてしまった。でもいったいなぜこんな状態がひっそりと続いていたのか…。Sくんがお母さんに言わなければ、このまま気がつかないで時が過ぎていったと思うとぞっとしました。誰の目にも無邪気に遊んでいる子ども達が、実は大人の知らないところでこんな側面も持っていたことが胸に突き刺さりました。だけど逃げるわけにはいかない。「クリスマス会がやれなくてもしかたない」ゆうしくんもぺろちゃんもそう覚悟を決めたそうです。だって、その年の歌は『ともだちのうた』なのだから。今の状態のまま歌えるはずがありません。私達の話を聞いていた子ども達は泣きながらSくんに「ごめんね」と言いました。そしたらSくんは「もういいよ」と言うではありませんか。あんなに悲しくて苦しくて麦っ子を辞めたいとまで思い詰めたのに、「もういいよ」と許してあげるSくんの言葉にまた、涙があふれました。

 この事件は、「Sはもういいよ、と言ってくれたけど、それだけじゃダメだ。今日家に帰ったらちゃんとお母さんやお父さんと話をして、Sに本当に許してもらうにはどうしたらいいのかを、自分で考えてくるように」と言うゆうしくんの言葉で、さらに2日間かけて考え合って一応の決着にたどり着きました。自分の言葉でつっかえつっかえ話して「ごめんね」と謝った子。「こういうこと、もう絶対やんない」と泣きながら言った子、などなど…。それぞれの精一杯の言葉を聞きながら、太陽のひとりひとりの心にSくんの「もういいよ」がしっかりと響いたと思っています。この後に歌った『ともだちのうた』は、どんな名曲よりもステキでした。小さい空ぐみでさえ「ごめんね」「もういいよ」と言い合える麦っ子の子ども達。大人になるとなかなか相手のしたことを許せなくなりますが、素直に相手を許してあげられる子どもって本当にスゴイと思います。世の中、こんなスゴイ子ども達ばかりだったらどんなにか平和になることでしょうね。

 あの時は2日間かけてみんなで話し合ったのですが、「もういいよ」という子を見ると、今でもあの時の光景を思い出します。    (2020.10.6)

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