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麦っ子の台所

  自然の中で、自然と共に育っていこうと考える麦っ子では、食についても、同じように自然の営みやサイクル中で生まれるものを大事にしたいと考えています。だから、季節や風土にあった露地野菜、農業や化学肥料に頼らず、太陽をたっぷり浴びて伸び、クスリのかわりに手間と心(愛情)をかけて育てられ運ばれてくる野菜や米、そして、そうやってできた農産物をもとに作られた調味料を使って食事作りをしています。

 スーパーに一年中並んでいる夏野菜のトマトやきゅうりが冬の給食に出ることなどなければ、夏にさつまいもやみかんを食べることはありません。時季によって揃う食材が違うので「1日30品目の食材を」などという無理矢理なことはせず、旬の野菜を中心に、その時あるもので献立を組み立てます。

 台所は季節に合わせ、自然のサイクルにそって育った恵みを迎え入れます。ドロつき、虫付き、虫喰いの野菜たちは決してみんな同じかたちや大きさではなく、中には二股、三股のものや大きく湾曲したものなど、のびのび自由に育ってきたなぁ…とほほえましく思いながら洗うことがあります。

 「野菜は切り方によって味が違うんだって」「重ねる野菜の順番によって味が変わるよ」「アクも味のうち、旬のものは水にさらさず苦みも食べよう」「塩の加減ひとつで甘みも出せる」ーーーそんな、台所で語り継がれた会話をしながら、素材の味をひき出せるように、切ったり調味しています。

 それでも2011年の東日本大震災による原発事故以降、私たちの食べものの選択の仕方も変わらざるを得なくなりました。どれだけ心を込めて作られたものでも、手間をかけ丁寧に作られたものでも、放射能汚染のことを気にしないわけにはいきませんでした。産地を気にしたり、放射線量を測ってもらったりして、安心と思われるものを手に入れることが大きな課題となりました。全国各地に繋がっている方々から食材を調達していただいたり、情報をいただいたり、作って運んでいただいたりと、たくさん助けてもらいました。それは今も続いているのですから、ありがたいことです。

 3.11以前は春には子どもたちがお散歩で摘んでくるつくしや野草でおひたしや天ぷらを、よもぎでお団子を作って食べていました。初夏にはくわの実やさくらんぼ食べツアーを楽しんでいましたが、残念ながら今はそんなこともできなくなりました。せめて麦っ子の中だけでも、と線量を下げる努力をしながら今までやってきて、園庭のあんず・プルーン・さくらんぼ・びわ・ぐみ・姫りんご・桃・ぶどうが食べられるようになりました。


 子どもたちは、天気がよければ外でたっぷり散歩をして、お腹を空かせて帰ってきます。空腹時には何でもおいしくてお腹いっぱい食べることの幸福感・満足感を味わい、それがありがたいことだと思える感謝の気持ちにつながると考えています。それは食事を作る者に対してだけでなく、作物を育ててくれる農家の人に、運んでくれる人に、光をを与えてくれるお日様に、水に、土に虫に鳥に…感謝の気持ちをもってもらいたい、そして大人も一緒に「ありがたいね」と共感できるようでありたいと思います。
 私たちは、子どもがごはんを受け取る時の「ありがとう」と「いただきます」そしてお皿をさげる時の「ごちそうさま」を大切にしています。時々台所から出て、子どもたちが食べている様子をのぞいたり、声をかけたりしています。

離れてみえる台所ですが、子どもたちと深いつながりを感じながらご飯づくりをしています。

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